ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)作者: 川上弘美出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2006/07/28メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 35回この商品を含むブログ (206件) を見る

 なんとなく気になっていた作家、川上弘美
 有名だしね。
 でもなんとなく、怖いキツイイメージがあって、読んでなかった。

 この『ニシノユキヒコの恋と冒険』は、とりあえず装丁がよくって、なんだか読みたいと思っていた。 良い感じの書評も読んだことがあったし。
 で、ついに手にしてみたのです。
 そして、きついイメージはなんと激しく勘違いだったと気付いた。
 
 ニシノユキヒコ(西野幸彦)という周りから見たら女ったらしの、だけどなんだかひょうひょうとしていて、とても自然体で、すぅっとした人間。真実の愛を捜し求めていた男、ニシノユキヒコに関係した女たちが語る、10篇の連作集。

 なんだかとっても静かで、落ち着いた流れの文章。
 よしもとばななの『デッドエンドの思い出』的な落ち着き方。
 でも、内容としてはもっと切なくて、幸せでない。


 男にまつわる連作集ということ、及び、その男が飄々とした女たらしという点で、三浦しをんの『私が語りはじめた彼は』と似ている。

 こういうなんだか冷めたような温かいような寂しい小説はきっと女性に好まれるだろうと思い、そして、私も好きだなぁ、と思う。

一つ一つの短編の中に、前に出てきた登場人物がちょっと関連したりして、そういうところが楽しい。
 伊坂幸太郎の『チルドレン』とか、平安寿子の『もっとわたしを』に通じる?
 でもこのまとまり感はすごい良い。 連作にしたからこその美しさがあるね。

 ニシノユキヒコは死んだ姉への愛?を確信しないまでも感じていて、(たぶん)そのために、女を本当に愛せない。
 だけど、ニシノユキヒコを本当に愛さない女に対しては激しい愛情を持って、だけど、彼女たちには最終的に振られる。
 だけど、その終わり方がとても冷めたさわやかさを持っている。


 愛し合おうと思えば愛し合えるけど、でも、やめておこう。
と、その女たちは思い、そしてなんだか悲しいけど、美しい、そんな終わりが来る。

 ニシノユキヒコは何かを悟っている風に何時も自然で、そしてすぅっと人々の中に入り込むのだが、だけど、愛を模索しようと激しくなると、なんだかたがが外れる。

 そんなところがとても魅力的。


特に好きなのは
 ニシノユキヒコが中学生のころの話。ここに原点がある?「草の中で

 それから、50歳ぐらいのニシノユキヒコが18歳の大学生と恋をする「ぶどう

 そして、ニシノユキヒコが大学生時代の、姉について語るラストの「水銀体温計

 なんとなく女が強い感じの作品だから良いのかもしれない。
 なんだか内容が頭に残らないのだけど。
でも、なんだかなんかのカタマリが残る。 内容なんて、忘れちゃっても。


 そして、私はニシノユキヒコのようになりたい、と思う。
 そして、私に何か“恋人”というような人ができたら、水銀体温計をプレゼントしようと思う。