『家守綺譚』 梨木香歩

家守綺譚

家守綺譚

 特に先を急いで読みたいと思ったり、先が気になって急かされたりする類の小説ではない。
 なんだか何かが温かく落ち着いており、穏やかな話であった。

 文体は何か少し昔の言葉のようで、それがまた話のないようにしっくり来る。

 物の怪、というような者たちが出てくるのだが、それが全く驚きなく、何か日常が続いているような穏やかな文体であり話であった。

 というのも、この主人公が、「桜鬼なんぞに律儀に挨拶されるような境涯にあって、超然としている」様な人物であるからであり、また、その隣に住む奥さんや後輩の山内君、和尚さんが彼らに付いて非常に良く知っており、また普通であることがその要因であるのだ。


 彼らが優しく、何かおかしく、また可愛い、穏やかで平穏な生活を送っていることが、何か読者に心落ち着く快さを与えるのだろう。



 
 物語は1つ4.5ページで構成されており、一つ一つに木々の題名が付けられている。

 それぞれに魅力的な木々(彼らは時々感情を表したり、人間のような格好で出てくる。)や、鬼やタヌキが出てきて、優しい日常を紡ぐ。

 主人公の作家(貧乏) 綿貫征四郎は、死んだ親友高堂の家に家守として住み始め、そこで物の怪の揉め事の仲介が上手い犬ゴローと暮らし、サルスベリに恋されたり、親友の高堂が時折掛け軸の中から現れるのを驚きも少なく受け止めながら暮らしていく。

 その、カッパが庭にやってきたり、鬼とであったり、タヌキに化かされたりというエピソードが穏やかに淡々と流れる日常に組み込まれていると言う物語。


 こんなところ(山があったり、川があったり、自然が一杯)にすみたいな、作家になりたいな、と、改めて思った。